設立趣意書

 現在の日本は国全体が大きな転換を強いられているが、それはある意味で過去に類例のない特徴をもったものである。過去を振り返ると日本は戦前、軍事力で欧米に追い付くことを目指していたが、それが太平洋戦争で挫折した後、日本は「これからは民生経済の時代である」と方針転換して自動車やテレビの生産で米国に追いつくことを目標とし、1990年代には米国を追い越すほどになった。しかしそこで米国は世界経済の主力をITに移行させて全部をリセットし、またもや日本は一からの再スタートを余儀なくされている。
 現在これに起因する多くの問題が喫緊の課題として山積しているが、ここで特筆すべきは、今の日本が特に知的活動の分野において、過去に経験したことのない未知の挑戦を行わねばならなくなっていることである。これまで日本は、欧米で生まれた新しい学問やビジネスをキャッチアップして、それを質の高い労働力で量産することで経済大国となってきたが、現在の世界ではその方法論全体が根本的に無効化しつつある。まず現在の世界経済の主力たるIT産業では、一番手のトップ勢力が利益を独占して、二番手以下が「追いつき追い越す」ことが難しくなっている。その一方で工業全体もIT化によって、世界中で共通化された部品を使って新興国が先進国と同質の製品を作れるようになり、かつての日本の立場にとってかわっている。ここでさらに深刻なのは、中国をはじめとする新興国の参入が、人口の面で過去とは桁違いの規模になっていることで、これは単に日本のキャッチアップを経済面で困難にするに留まらず、日本の国全体が文明レベルで埋没する危機にあり、欧米の発想に追随した小手先の対応では国自体が立ち行かなくなっている。
 そのためもはや日本は、独自の物の考え方を、欧米の後追いでなく自力で生み出すという、未曽有の挑戦を行うほか生きる道がないのである。この知的プラットフォームでは、そこを担える組織となるために、以下のようないくつかのユニークな特性をもたせることを目指しており、それらをもう少し詳しく見てみよう。

 

1.温故創新

 まず、そのように日本が欧米の追随でない独自の思想を生み出そうとする場合、米国の頭脳の引力圏から脱することが結局は不可欠となるが、それには何が有効だろうか。ここで古今東西の事例を眺めると、そもそも一般的に言って、最新情報があまりに多く集まりすぎている場所からは真に革新的な思想は生まれにくいのである。確かにそういう場所では浅い表面的・戦術的なアイデアは大量に出てくるが、それらはすぐに陳腐化してしまい、むしろこういう場合に真に有効だったのは、逆に思いきり昔の古典に立ち返ってその思想を深く読み込み、そこからあらためて現在を眺め直すという方法論だったのである。
 現代のわれわれの場合で考えると、現在の世界を支配しているのは「物事をパーツに分けて扱う」という近代西欧(特に米国)の、いわゆるデカルト的還元主義の思想である。そのため世の中のほとんどの最新情報も結局はどこかでその影響を受けているが、一方でこの思想の弊害が社会のあちこちで表面化し始めていることも事実で、いずれにせよそれを乗り越えることが一つの鍵となる。そのためむしろ近代西欧の盲点にある、古い時代の知恵をアップデートして応用することが有効であり、それはいわば「温故創新」とも表現できるかもしれないが、それはこの状況下で日本が解答を見出す有効な手段と考えられる。

 

2.文理融合

 また、一般にこういう場合、異分野間で相互に乗り入れを行うことはいろいろな局面で役に立つ。特に理系と文系を融合させれば、双方の中に蓄えられているたくさんの知恵が互いにつながって多数のリンクの糸が生まれ、その効果は単に知識の量が2倍になることを遥かに上回るだろう。ただ、従来から日本では欧米に比べて文系と理系の乖離が大きく、それが発想力の弱点だとも言われてきた。しかし実は米国においても、両者の本格的な融合は決して十分とは言えないのが現状なのである。実際に例えば過去にプリンストンなどいくつかの場所で、その種の学際研究に関する野心的な試みが行われたが、結局それらはいずれも目立った成果を上げられなかった。その理由を探ると、どうやら米国に深くしみついた「物事をパーツに分けて扱う」というデカルト的還元主義からの脱却に関して、徹底的に突き詰めなかったことが一因だったように思われる。逆に言えばその部分を、理系と文系を自由に行き来する形で深く根源的な思想レベルまで掘り下げるならば、欧米でも生み出せなかった新しい発想を日本から生み出すことも、十分可能だと思われる。

 

3若者レベルでの熟議

 先ほども述べたように、日本では過去に欧米の後追いの「二番手商法」がそれなりに有効に機能したが、現在ではむしろその成功体験が社会にしみついていることが足かせになっている。その点から考えると、現在の我々若者はその成功体験をもたないという点で有利な立場にあると言えるかもしれない。ただその一方で我々若者達は最新情報に振り回されやすいという弱点も持っており、そこはシニア側にカバーしていただくことが必要である。そもそもこれは最近の世界的な傾向で、大量の情報を扱うために知識の一つ一つにかける時間が短くなっており、その結果として、しばしば表面的で寿命の短い戦術的な発想ばかりを量産する状況に陥りがちである。それらを考えると、我々若者側がメインとなる一方で、思想レベルの重要部分ではシニア側の過去の事例やご意見、知恵をおかりする形で熟議を行うという形態が、双方の弱点をカバーする最も有利なものとなるはずである。そしてその際に先ほどのような温故創新、文理融合などの方法論を踏まえてアプローチを行うならば、さらに強い力を期待できるだろう。
 この知的プラットフォームでは、これらの方法論の活用によって、従来の常識、概念、通例を超えた革新的な解決策を見出し、それらに基づく調査・研究・政策提言・活動を全国的に展開していくことで、現在の困難な状況をむしろ逆手にとって、国全体を上昇コースに乗せる重要な起点となすことを目指していく。

2024年3月1日
知的プラットフォーム推進全国フォーラム